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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1093号 判決

控訴人

高瀬儀一

右訴訟代理人

近藤正昭

外三名

被控訴人

株式会社大和銀行

右代表者

池田一郎

右訴訟代理人

占部彰宏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、左に記載するほか、原判決理由と同一であるからこれを引用する。

一原判決理由の

(一)  三枚目表一行目から二行目にかけての「単に『佐藤高史』名義で原告の預金をすること」を「花田、佐藤らが導入預金の預金者らを信用させる見せ金として原告の出捐する資金を佐藤高史の名義で預金すること」と改め、三枚目表最終行の末尾に「なお右送金小切手の送金依頼人をニシノテイジとしたのは、西野から『佐藤がまだ原告の名前を知らないから、自分の名で振り込んでくれ』と言われたためである。」と加える。

(二)  三枚目裏一〇行目の「ところで」から四枚目裏一〇行目までを次のとおり改める。

記名式定期預金契約において、預金の出捐者甲が乙に対し、甲の預金とするために金員を出捐して乙名義による記名式定期預金の預入手続を依頼し、乙が乙名義で預入行為をした場合、乙が右金員を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情の認められないかぎり、右預金の預金者は甲であると解すべきである。その理由。(イ)記名式定期預金契約が締結されたにすぎない段階においては、銀行は預金者が誰であるかにつき格別の利害関係を有しない。(ロ)銀行が記名式定期預金債権に担保権の設定を受け、または、右債権を受働債権として相殺する予定のもとに、新たに貸付をする場合において、預金者を定め、その者に対し貸付をし、これによつて生じた貸金債権を自働債権として記名式定期預金債務と相殺するときなどは民法四七八条の類推適用があり(無記名定期預金に関する最高裁昭和四八年三月二七日第三小法廷判決、民集二七巻二号三七六頁参照)、右類推適用の要件として、預金時及び貸付時に善意無過失であれば足ると解することなどにより、銀行の利益は十分保護されうる。(ハ)それゆえ、上記のように解し、出捐者と銀行との利益保護の均衡をはかるのが相当である。

本件についてこれをみるに、前認定によると、原告は佐藤に対し、原告の預金とするために四〇〇〇万円を出捐して佐藤名義による記名式定期預金の預入手続を依頼し、佐藤が依頼に従い佐藤名義で預入手続をした後、原告は右預金証書の保護預り証と届出印章を所持していた(後に佐藤により右印章を別の印章にすりかえられた)のであり、前記特段の事情は認められないから、本件預金の預金者は原告である。

(三)  六枚目表一行目の「一部」の次に「、証人今井昭三郎の当審証言と控訴本人の当審供述の各一部」を加え、七枚目裏一二行目の「本件」から最終行までを「本件送金小切手を取り出した。星野は『佐藤高央』宛の預り証を作成してテーブルの上に置いた。右預り証を持ち帰つたのは原告であつたが、被告側ではとくにその点を確認していない。」と、八枚目表四行目の「原告から」から五行目の「持ち出され、」までを「原告が預り証を取り出してテーブルの上に置き、星野は本件送金小切手をその席に持ち出したのち、」と、その裏六行目から八行目までを「このメモと本件保護預り証は、被告担当者が預金者(被告側は佐藤と考えていた)に交付すべくテーブルの上に置いたが、被告側においては、これを何人が持ち帰つたかを確認していない。しかし右メモと本件保護預り証は原告が手にし、印章とともにポケットに入れて持帰り、以後原告が保管していたのであるが、原告は右自分が持帰ることを被告側にとくに確認させたものではなかつた。」と、一〇枚目表二行目から五行目までを「甲第四、五、八、一一号の各記載、証人佐藤常彦、星野皓の各原審証言、同今井昭三郎の当審証言及び控訴本人の原・当審供述中右認定に反する部分はたやすく信用し難く、他に右認定を覆し得る証拠はない。」と、一二枚目表七行目の「定期債権」を「定期預金債権」と各改める。

二控訴人は、「佐藤に準占有者としての外観はない。被控訴人が佐藤の保護預り証の紛失届出を軽信し、控訴人主張の調査を尽すことなく本件定期預金に質権を設定し、相殺、払戻をしたことは重大な過失がある。」と主張する。

しかし、証人星野皓の原審証言及び同今井昭三郎の当審証言によると、被控訴人直方支店の担当者らは、本件定期預金の預入手続、預金証書の保護預り手続において、終始佐藤を預金者と認識し且つこれに疑を抱くことなくその受入れをなしたことを認めうる。前認定のとおり、被控訴人側は、五月一六日に花田、佐藤の両名に預金の勧誘をした際、佐藤から後援者から送られてくる土地買収造成資金を一時定期預金にしたいと申し込まれ、翌一七日に佐藤自ら来行し、これに控訴人他二名が同席したものの、前記各手続上、佐藤の通称の「佐藤高央」名義が用いられ、保護預り約定書の依頼者欄には佐藤が署名するなどして、佐藤は預金者のような振舞いを見せ、控訴人を含む同席者もこれを容認してこれに協力したのであるから、佐藤を本件定期預金の預金者と誤信したことには、まことに無理からぬものがある。控訴人は、資金が送金小切手に取組まれ、且つこれを控訴人が所持していたことを重視すべき旨主張するが、右送金小切手の送金依頼人はニシノテイジであつて、被控訴人側には西野は佐藤の後援者たる会社の社長、控訴人はその不動産部長であると紹介されたのであるから、被控訴人側が、前認定の佐藤からの預金申込の際の説明と相俟つて、佐藤は後援者から送られた資金を自らの預金として預金するものであり、控訴人は佐藤の後援者たる会社の役員の立場で右小切手を所持したものであると受けとめても無理はなかつたと認めうる。

かように被控訴人が本件定期預金の預金者は佐藤であると信じたことは、客観的にも無理がなく、且つ前記質権設定等の手続の際、佐藤が届出印章を所持していたから、たとえ紛失したという理由により保護預り証の提示がなかつたとしても、なお佐藤を本件定期預金債権の準占有者と認めるのが相当であり、控訴人主張のような各種の調査を尽さなかつたことに過失があつたものとは認めえない。

よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条、八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 潮久郎 横畠典夫)

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